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第2回EMP Science Café 開催報告

平成31年2月5日に、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)よりお越しいただいたビクトリア・ヴェスナ教授を迎え、「人間情報学とは何か」をテーマに「サイエンスカフェ」を開催した。本学エンパワーメント情報学プログラム(EMP)の担当者でもあるヴェスナ教授は、当該のイベントで人間情報学の意味を探究し、また情報学と人文学との関わり方や互いのインターセクションにいてのお考えを述べられた。講演の後、イベント参加者を交え、ディスカッションを行った。教員8名、学生6名が参加した。

ヴェスナ教授は科学と芸術とが融合したメディアアートについて、多岐にわたり精力的な研究活動を従事されている。そのため、情報学と人文学という二つの視点を通し、メディアアートの発展の歴史に振り返りつつ、目下の現状についてのご見解を述べられた。具体的には、アメリカにおいてメディアアートを研究する経験に触れ、日本のメディアアートに言及された。日本の事例としまして、作家・大江健三郎が科学と日本社会について言及した著作をあげた。

今回のサイエンスカフェでは、ヴェスナ教授は「情報学寄り」だった前回と若干異なった切り口で話を進め、人文学的視座に立脚し、アートの側面からみた情報学、また情報学と科学について論じた。参加者にとって、人文学の視点から人間情報学という学問について、改めて考えさせられる機会となった。とりわけディスカッションでは、大江健三郎が論じた科学と社会に関する見解に対し、多くの参加者からそれぞれの解釈や理解を共有することができた。

さらにヴェスナ教授は、アメリカ人読者として大江の作品に触れ、そこで感じた大江をはじめとする日本文学の素晴らしさについて詳しく述べられた。これに際し、ヴェスナ教授が提示する問題意識として、日本が大江のような素晴らしい文学を生み出し、また最先端の技術などを発信する一方、文豪が掲げた科学と人間との関係性について見解は、なぜアメリカ社会で広く理解されず、定着しないのか。グローバル化で情報の行き来が簡単にできるようになったにも関わらず、どうして大江の考えはアメリカであまり知られていないのか。こういった問いを、参加者に投げかけた。またヴェスナ教授は「バードソングダイアモンド」と名付けたアートプロジェクトを推進し、分野を横断したアプローチでメディアアートの研究に従事しておられる。当プロジェクトは、主に鳥の鳴き声に焦点をあてている。大江健三郎の息子である光は知的障害を持ち、人間とうまく対話することができないが、鳥の鳴き声に敏感であり、鳥とは対話できたと指摘し、大きな関心を持っておられた。また、流れる情報とはどのようなものなのか、現代社会を生きる個々人のテクノロジーリテラシーのあり方について、お考えを述べておられた。社会がテクノロジーの進展で便利になるにつれ、人々はいっそうAI、スマートフォン、パソコンなどへの依存を深め、こういったデバイスなしには生きていられなくなりつつあった中、人間が人間らしく生きていくため忘れてはいけない課題や、人間が科学と情報との共存についての問題点など、参加者に問いかけた。EMPは学際性を主体とするプログラムであるため、研究分野が違う者同士が交流し話し合うことが肝要である。いかに多様性を尊重しあい、理解し合えるか。そして違う価値観を持つもの同士が互いから学び合うことをモットーにしているため、今回ヴェスナ教授が催したサイエンスカフェは、当プログラムの意趣に沿った、大変有意義な内容であった。